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郷里の色を織る あんず染「 更級(さらしな) 花織工房」

掲載日/2023年12月中旬

 当館のおみやげ処で、以前からあんず染のショールやブックカバーなどの小物を販売してきましたが、最近では鹿革を「あんず染」した財布などの商品も並び始めました。あんず染をしているのは千曲市のあんずの里にある「更級花織工房」の染色作家、窪田孟恒さんです。(以後 窪田さん)

 あんずの木だけを原料にして色を作り出しているのは日本でも窪田さん一人で、昨年4月にリニューアルした工房にはギャラリーやカフェも併設されています。染織には全く知識がないので訪ねるのも少し気が引けていましたが、今回はギャラリーを見学させていただこうとアポを取って訪ねてみました。

ギャラリー、カフェ併設の工房

 工房に入ると織機、その先にギャラリーとカフェがありますが、ご家族のみで運営されているので、こじんまりとした工房です。あんず染した鹿革は材料として千曲市内の革製品の工房に行き商品となります。

織の工程

 ご挨拶して、さっそく制作過程についてお聞きしました。まずは織の工程の話で、私には知識が全くなかったため最初はちんぷんかんぷん。窪田さんは途中工程の糸を見せながら丁寧に教えてくれました。絵絣については特に人物の顔の部分を織るのが難しいとの事で、「笹屋さんに飾ってもらっている絵絣は大きいので大変だったよ」と懐かしそうに話してくれました。
なるほど絵絣の工程を知っているのと知らないとでは作品を見る目が随分変わってきますし高価であっても納得できます。

染めの工程

 続いて、糸を染める工程についてお聞きすると外に案内してくれました。
建物の横には細かくしたあんずの木から染液を作っている釜と糸を染液に浸けている容器があり、中を見せてもらいました。

杏の木の断面

 ブルーシートの下には50cmほどの長さにカットされたあんずの木が積まれており、窪田さんは切り口を指さして「この切り口の色を見てあんず染を思い立った」と教えてくれました。工房に戻ってあんず染に至る経緯について話していただきました。

 窪田さんは織物会社で働きながら絣織を制作していましたがその後独立。
山陰で一生仕事をしようとした時期がありましたが故郷への思いを捨てきれず、結局千曲市の今の場所に工房を作りました。染色はずっと紺色が主体でしたが、窪田さんは紺色以外の色を捜していたとのこと。
「途中で切ればそこから新しい芽が出るから」と農家の人に言われて古いあんずの木を伐ってその断面の色を見た瞬間「この色に染めたい」と思ったそうです。初めて糸を染めた時はあんずの花の様に淡い色だったと、嬉しそうに話してくれました。

杏染めの作品

あんず染は何日も繰り返さないと染まらないので大変手間がかかります。濃い色にするには鉄を入れたり、色の調整にミョウバンを入れたりと様々な工夫が必要です。染織の師匠からは効率がわるいし、色のインパクトが弱いから売れにくいのでやめた方がいいんじゃないかと言われたそうです。

しかし、自然の染料には化学染料にない力がある。化学染料は時間とともにあせていくが自然の染料は反対に深く染み込んでいくので色合いが良くなるし、また光の当たり具合で色が変化するのも魅力。なんといってもあんずは子供の頃からずっと好きだったから、楽ではないが続けていると言います。

見送りしてくれた窪田さん

窪田さんが郷里に帰ってあんずの里に工房を建てたのも、あんずの木の断面を見て染液を思いついたのもあんずとの縁だったんですねと言うと「あ~縁かな」と、とても嬉しそうでした。
 工房内の写真を撮らせて頂き、お礼をして玄関を出ると窪田さんは外まで見送りに出てくれました。せっかくなのでご本人の写真もお願いしました。

3月下旬、あんずの里は花が見頃になりたくさんの花見客で賑わいますが、このあんずの木の染液を使って染めた織物があることをどれだけの人が知っているのかな? そんな事を考えながらあんずの里を後にしました。
繊細な仕事なので、気難しい人かなと思っていましたが、とても親切で話しやすくて人柄が作品の風合いにも出ているような。
工房の玄関先で撮った窪田さんの写真を見てそんな気がしました。

*工房へ行かれる場合は事前連絡をお勧めします。