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虎に惹かれて善光寺「曽我物語の小路」

掲載日/2024年3月上旬

 善光寺には七名所と云われる名所があります。
善光寺周辺の寺院・神社・池・清水・小路・橋・塚の7種類にそれぞれ7つ、計49か所で江戸時代初期から後期にかけてまとめられたようです。
その一つ「虎が塚」にはなかなか興味深い伝説がありました。

「虎が塚」には、仇討で有名な曽我兄弟と、兄 曽我祐成の妾だった虎御前の遺品が収められていると云われています。
鎌倉時代、曽我兄弟は父の仇討ちには成功しましたが殺されてしまいます。兄の妾であった当時19歳の虎御前は出家し、女人禁制ではなかった善光寺に赴き、庵を作って兄弟の供養をして過ごしたそうです。そのため、塚の近くには「虎石庵」という庵の跡もあるとか。

他にも「虎が橋」や「虎小路」と呼ばれる通りもあり、いずれも七名所の中に数えられています。周辺の地域も長野市岩石町(がんぜきちょう)と言って「虎が石」に由来するというなんとも虎づくし。一般的な観光マップには紹介されていなかったのでインターネットで地図を調べてみると武井神社境内に「虎が塚」があるように記載がありました。虎に関する記載は他にはありませんでしたが、おそらく近くにあると思い、今回は虎探しに善光寺に行ってみることにしました。

虎が塚

 武井神社は善光寺表参道の東にあります。
境内に入って隅々まで探しましたが「虎が塚」は見つかりません。境内には他に人が居ないので誰かに聞こうと脇の小路に出ると、こちらに歩いてくる人がいました。尋ねてみると「曽我兄弟のアレならこれです」と言って少し戻って指をさして教えてくれました。
実際に見てみると種類の違う石が二つ重ねてあるだけでちょっと拍子抜けしましたが、岩石町の建てた石碑には「この下に兄弟と虎御前の遺物が埋蔵されています」と書いてありました。

虎が橋

さて、「虎が橋」はどこだろうと辺りを見ると塚の向かいに小さな石碑がありました。 民家の玄関先で川も橋もないのに「なんで?」と思いながら静かな坂道を上り始めると 水の音が聞こえてきて、脇に小さな川があるのがわかりました。 「虎が橋」の石碑の辺りは川が道路の下になっているのでわかりませんでしたが、その昔この辺に橋があったのは間違いないようです。

西宮神社

 小路の坂道を上ると旧北国街道に出て右角にはえびすさんの西宮神社がありました。
虎小路の案内は見あたりませんがこの先は旧北国街道なので、おそらくここまでの小路が虎小路で間違いないと思いました。旧北国街道を西に100m程度進むと善光寺の参道で、本堂まで参拝客が続いて賑やかです。せっかくなので参拝してからまた脇道に入るとぐっと静かで落ち着いた雰囲気になって、なんとも不思議な感じがしました。

風情ある街並み

この辺は問屋街だったので蔵が多いと聞いていましたが、なるほど風情ある建物が残っていてレストランやカフェになっている蔵や古民家もあります。
旧北国街道沿いにケーキ屋さんがあったので話を聞くと、古民家再生の応援があって新しいお店が増えてきたと言います。

「とんかつ成満堂」さん

 一回りして虎小路に戻ってきました。西宮神社のすぐ下に狭い小路があってこの先は何があるのかと入ってみました。古い民家に赤い暖簾が掛かっていたので近づいてみると、とんかつ屋さんでした。狭い路地に隠れるようにあって、お客さんは来られるのかな?なんて思ってしまいます。虎小路には東欧雑貨の店や音楽教室もあり、なんともこの界隈は奥が深い所です。

*赤い暖簾のとんかつ屋さんは「とんかつ成満堂」さん。完全予約制です。

虎石庵

坂を下って「虎が塚」まで来ると、左にさらに狭い小路があります。
この先はなにかな?という好奇心で進んでみると石碑があって、よく見ると「虎石庵」と書かれていました。つまり、ここは虎御前が曽我兄弟を供養していた庵の跡という事になります。
善光寺の御利益なのか虎御前が呼んだのか?この発見はなんとも偶然で感動してしまいました。 これで岩石町にある「虎が塚」「虎が橋」「虎石庵」「虎小路」と虎御前に纏わる伝説の場所はすべて発見した事になり大満足で帰路につきました。

 戻ってから虎御前について更に調べてみると、虎御前に纏わる碑や墓と云われる場所は全国各地にあって、北は福島県から南は鹿児島まであるようです。長野県の立科町には虎御前という地域やバス停もあり、驚きました。
曽我兄弟の仇討ちは、後に日本三大仇討ちの一つと言われるほど大きな事件だったため、兄の祐成と虎御前の悲哀の物語と併せて旅の芸能者によって広まったとされています。どこまでが真実なのかはわかりませんが、鎌倉時代に成立した日本の歴史書「吾妻鏡」には、虎御前は仇討ちの翌月6月18日に供養のために善光寺に赴いたと書かれているため、供養の後は大磯に帰ったという説もあるそうです。

 さて、今回は虎探しがきっかけで、普段は行かない善光寺参道の脇道に入った小路を探索しながら歩きましたが、この地域には空き家や古民家をリノベーションした小さな店舗が随分あることがわかりました。
蔵のある街並みの小路にお目当てのお店を探しに行くと、合間に思わぬ発見があるかもしれません。
脇道探索も善光寺を参拝した後のもう一つの楽しみ方ですね。