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消えた梅花藻 ―白馬村 姫川源流―

掲載日/2025年9月上旬

 作家、中野京子さんの著書「新・怖い絵」の表紙を飾るのはミレーの「オフィーリア」。
シェイクスピアの戯曲「ハムレット」でハムレットの妃候補でもあるオフィーリアが足を滑らせて川に落ち、沈みゆく様子を描いたという確かに怖い絵ですがオフィーリアの周りには様々な花が描かれていて透き通る水面からは梅花藻が白く可愛らしい花をのぞかせています。


白馬 姫川源流自然探勝園の梅花藻(2017年撮影)

怖さとは関係なくこの絵を見て「どこか似ている」と思ったのが白馬村の姫川源流でした。
姫川源流は白馬村の中心から少し離れた「姫川源流自然探勝園」の中にある湧水で白馬村から小谷村を通り新潟県糸魚川市から日本海へ注ぐ全長60kmの一級河川、姫川の源流とされています。
湧水は小川となり水辺には季節ごとに様々な花が咲きますが、前回訪れた時に見た透き通る水と梅花藻の群落がとても印象的でその時の風景がこの怖い絵と重なったようです。

怖い絵に似た風景だから涼しくなるわけではありませんが、連日の猛暑には湧水と梅花藻は避暑とレポートには一石二鳥。花の時期が終わらないうちにと早速出かけました。

水芭蕉の大きな葉

源流までは「白馬さのさかスキー場」の駐車場から林の中の小路を5分程度歩きます。春から初夏にかけては様々な花が楽しめますが真夏は花も少ないためか訪ねる人は疎らです。
途中には荒神社という神社があり気にはなりましたが今回は写真だけ撮って先を急ぎました。神社を過ぎると下りの木道になり、下り切ったところが源流で湧水が小川となって流れていきます。所々に時期が過ぎた水芭蕉が大きな葉を広げていました。

以前は梅花藻の群落地だった水面

小さな石の橋を渡ったところが前回写真を撮った梅花藻の群落地、ワクワクしながら水辺に近づき水面を見ると、なんと梅花藻はどこにも見あたりません。
花も無ければゆらゆらした葉や茎もなく何か藻のようなものが水底に生えているばかり。水量も以前より随分少なく感じました。インターネットで「姫川源流」「梅花藻」で検索した限りではたくさんのサイトで紹介されていたので、まさか影も形もないとは思いませんでした。
梅花藻の花の時期はまだ終わってないはずなのに想像していた風景とは随分違っていてがっかり、どっと暑さを感じてしまいました。

親海湿原

この時期は梅花藻の他は特に見る物がないので、同じ園内にある「親海湿原」を回って帰ることにしました。
「親海湿原」は湿原植物の宝庫と言われていますがこの時期はやはり種類が少ないようです。ドクセリの花はたくさん咲いていましたが他は鬼百合が少しあるくらいなので途中で戻ることにしました。
駐車場に戻って近くにある「白馬さのさか観光会館」で梅花藻の話を聞こうと行ってみましたが残念ながらこの日はお休みでした。

大出の吊り橋

せっかく白馬まで来たので、次は白馬駅近くの大出公園にある「大出の吊り橋」を見に行くことにしました。
「大出の吊り橋」は姫川にかかる吊り橋でアルプスとセットになった風景は撮影スポットとしても人気です。特に桜の時期は残雪のアルプスの組み合わせが綺麗で絵を描く人も多いです。

昔の農村風景を保全するための公園

吊り橋を渡った先には大きな茅葺屋根の家や古民家を活用したカフェ、姫川沿いの遊歩道の先には水車小屋もあり、ここは昔の農村風景を保全するための公園として整備されています。
吊り橋の下流側には白馬三山、姫川、吊り橋が一枚の絵の様に見える絶景スポットと言われる展望台がありますが、あまりの猛暑に歩くのが億劫になり桜の頃を楽しみにしてという事で今回は見送りました。

戻ってから姫川源流の梅花藻について再度インターネットで検索すると「広報はくば2025年4月号Vol.583」に白馬村文化財審議委員会からとして姫川源流の現状に関する記事がありました。要約すると、2016年以降、降雪量が減少したのに伴い地下水位が低下し湧水量が減少。これによって梅花藻も急激に減少し、2019年頃にはほぼ消滅したとの事でした。前回訪れたのが2017年で当時はたくさん咲いてたのにその後ほぼ消滅したというのは随分ショックな話です。
遅ればせながらたどり着いた「白馬さのさか観光協会」のHPにも梅花藻は一昨年から咲かなくなり昨年も咲かなかったとありました。また、原因は調査中なので温かく見守ってくださいとのこと、双方の報告に差はありますが咲かなくなったというのは事実のようです。

梅花藻は冷たい綺麗な水を好むと言われているのでアルプスの麓の湧水なら問題はないはずですが、湧水量が減少すれば川が浅くなってしまうので確かに生存は厳しくなります。地域によっては絶滅危惧種になるほど貴重植物で信州でも見られるところは少ないようです。
今後は姫川源流の湧水量がまた増えて梅花藻が復活することを期待したいところです。

荒神社

梅花藻とは別の話ですが、「白馬さのさか観光協会」のHPには「姫川源流自然探訪園」が私有地であると書いてあったのでちょっと調べると姫川源流に行く途中にあった荒神社と関係があるようです。詳しい事は現地に行く必要もあるのでまた次の機会にしたいと思います。

さて、今回は事前の情報収集が甘く結果として空振りになってしまいましたが自然の景色はいつも同じではないという事を実感しました。
環境省のHPでは日本国内の絶滅機種は年々増えていて2024年4月現在で3,772種類が絶滅の恐れがあると報告されています。自然現象はどうにもなりませんが、人の介在によって例えば見かけは綺麗な川でも、実は生物は全く居ないというような「怖い風景」にはしたくないものです。