黒曜石という石をご存じでしょうか。縄文時代には矢じりや槍先、ナイフ代りに使われた鉱石で天然のガラスとも言われています。
上田市から霧ヶ峰高原に行く途中の長和町には「黒耀石体験ミュージアム」という黒曜石の資料館があり、また近くには当時の人々が黒曜石を掘っていた鉱山の跡をそのまま黒耀石鉱山展示室とした「星くそ館」という関連施設があります。
随分とユニークな名前の博物館もあるものだと思っていたところ、あるテレビ番組で信州産の黒曜石が青森県の三内丸山遺跡でも発見されていることを知りました。そんな時代にどうして青森県まで運ばれなければならないのかという疑問から今回はその黒曜石の資料館を訪ねてみることにしました。
「黒耀石体験ミュージアム」は当館より車で1時間40分程度、白樺湖手前にあるブランシュたかやまスキー場の向かいにありました。隣には「明治大学・黒耀石研究センター」という施設があり、どうやらこの地域は黒曜石の産地としては有名なようです。
建物は新しく、受付の隣にはショップもあって思っていた地味な博物館的な雰囲気はありません。館内の半分のスペースは黒曜石の矢じりやペンダントを作る体験室になっていて建物名の「体験」の意味はここにあることが分かりました。
資料館に入ると、ここ鷹山(長和町鷹山地区)の遺跡の説明や黒曜石のギャラリーがあり特に矢じりは宝石のように光っていました。霧ヶ峰高原周辺は本州最大規模の黒曜石原産地で、全国への流通経路を示したパネルには確かに青森県の三内丸山遺跡も含まれていました。
三内丸山遺跡で出土した黒曜石がなぜ信州産とわかるのかスタッフの方に聞くと黒曜石には産地によって成分に特徴があり化学分析によって区別がつくとの事でした。
また、「星くそ」とはどういう事かと聞くと江戸時代にはすでにそう呼ばれていて理由としては鉱山跡にはたくさんの黒曜石が散らばっていて、星の様にキラキラしているが特に役に立つものでもないので、だれかがそう呼んだのかもとの事でした。
さて、鉱山跡の「星くそ館」へ行くには別の受付をすることになりますが、入館料は「黒耀石体験ミュージアム」と共通なので支払いはありません。山に入るので熊よけの鈴を渡され名前、連絡先、出発時間を記入し下山後にまた受付に戻るシステムでした。
イラストマップを見ると鉱山にはたくさんの採掘跡があり「星糞峠」という峠名の記載がありました。「星くそ館」の名称はここから来たのかとようやく理解しました。
片道30分程度なので簡単に考えていましたが、途中からの木の階段がけっこう急だったのでトレッキングシューズを持ってきて正解でした。
登山道は林の中なのでとても涼しくて熊よけの鈴の音が心地よく響いていました。
20分程度急斜面を上ったところで先が開けて目の前に道路、その先には休憩所があり案内に従って更に登ると林の先に「星くそ館」が見えてきました。受付は無く自由に出入りができるようになっています。中に入ると通路の両側が鉱山の断面になっていて黒曜石が埋まっている様子が解るようになっていました。館内では20分おきにプロジェクションマッピングによる解説がありますが開始時間まで少し時間があったので一旦外に出て黒曜石を探してみる事にしました。
建物の周りをよく見ると太陽光に反射してキラキラ光っているガラスの破片のようなものがあちこちにあります。これが黒曜石かと手に取って見ると透明感があって確かに天然のガラスと言われるのも納得です。
黒曜石は持ち帰り禁止なので写真を撮ったあとは地面に戻し再び館内に入りました。時間になると鉱山の断面に文字や採掘の様子が投影され5分程度の解説がありました。ここから更に30分程度登ると鉱山の頂上に出て景色が楽しめるようですが今回はここで下山し受付に鈴を返して帰路につきました。
さて、黒曜石は信州だけで採掘されたわけではなく青森県や北海道でも採掘されていたのになぜ遥々青森県まで流通していたのか。なんと森林浴登山に気を良くして肝心な事を確認しないで帰ってしまい結局後から調べる事になってしまいました。
Webなどで調べると信州産の黒曜石は採掘量も多かったのに加え透明で質が良かったという記述が多く見られました。気泡や他の石などの不純物が少なく純度が高い黒曜石は加工がしやすいので、縄文時代には信州産は美しさと質の良さから今で言うブランド品の様に重宝されたとありました。また、ルートとしては千曲川を日本海に出て船で運ばれたと考えられています。
三内丸山遺跡では糸魚川産のヒスイも出土しているので日本海を船で一緒に渡ってきた黒曜石やヒスイを宝物の様に楽しみにしていたのかもしれません。
ちなみに長野県文化財活用活性化実行委員会が発行している「まるごと信州 黒曜石ガイドブック」には信州産黒曜石は「元祖!信州ブランド」だったと書かれていました。
今回テレビ番組からの情報がきっかけで「黒耀石体験ミュージアム」を訪ね、信州が黒曜石の一大産地だったことや縄文時代が思っていた以上に物流が発展していたことが分りました。また、「黒耀石体験ミュージアム」と「星くそ館」では黒曜石の加工を体験したり、登山しながら鉱山跡を見学するという、館内・館外を含めた体験型のミュージアムで想像以上にスケールが大きい事に驚きました。
「星くそ館」見学は登山をしながらなので夏の森林浴はもちろん秋の紅葉も楽しめるかなと思いました。
それにしても江戸時代には呼ばれていたという「星くそ」という名称。
どの時代に誰が呼んだかわかりませんが、信州産黒曜石が「元祖!信州ブランド」ならこちらは光っているだけに「元祖!キラキラネーム」かもしれませんね。
*長和町ではキラキラ輝くこの黒曜石を「耀」という文字で表していますので、本文中の施設名には「耀」それ以外は「曜」を使っています。
なお、「星くそ館」の開館期間は5月~11月で冬季は閉館となります。