

冬の姨捨棚田は農作業が一段落して春までは冬眠の時期となりますが、最近は一部の棚田で夕暮れから数時間だけ目が覚めるとか。
目が覚める? 実は、「ペットボタルⓇ」というソーラーライトを畔に設置して日没から光らせるという取り組みがあり冬の棚田の風物詩になっています。
写真でしか見たことがなかった棚田のライトアップですが、年々規模が大きくなっているそうなので今年は見たいと思い、まずは昼間の会場を見に行くことにしました。
「ペットボタルⓇ」が設置されているのは約2000枚ある姨捨棚田の北側の一画で、普段は棚田の見学用となっている駐車場の上が会場となっています。
案内に従って会場へ向かうと道路沿いにも「ペットボタルⓇ」が設置されており、棚田へと繋がっていました。棚田の畔にはたくさんの「ペットボタルⓇ」が綺麗に並べられ陽の光で輝いています。
想像していたよりも密に置かれていて驚きました。
いったいその数はどのくらいなのか、どうやってこれだけ大掛かりにできるようになったのか、その経緯が知りたくなり近くにある千曲市日本遺産センターを訪ねてみたところ、詳しい事は市役所でとの事。千曲市観光課を訪ねつつ、インターネットでも情報を調べてみることにしました。
姨捨棚田のライトアップは、千曲市民の有志が平成元年に「信州さらしな田毎の月実行委員会」を発足し、棚田の保全活動に理解を深めてもらおうと、訪れる人が少なくなる冬の時期に照明器具の設置を企画したのが始まりだそうです。照明器具には「ペットボタルⓇ(サンケン電気(株)の登録商標)」という環境教育教材を採用。リサイクル素材のペットボトルに太陽光パネル、蓄電池、LEDを組み込んだもので、暗くなると自動点灯します。
初年度は地元の二つの小学校の児童が作成した「ペットボタルⓇ」を棚田北側の田んぼ2枚分に設置しました。その後「長野県地域発 元気づくり支援金活用事業」を利用しながら参加する小中学校を増やし、この冬は約5,000個、棚田60枚分まで広がっています。
「ペットボタルⓇ」による棚田のライトアップは石川県輪島市の千枚田から始まり、今では姨捨棚田と同様に他の地域の棚田でも実施されるようになりました。全国的にライトアップなどの様々なイベントで棚田をアピールしている背景には棚田が持つ重要な役割があるからです。
棚田はお米という食料供給の役割がもちろんありますが、環境保全にも重要な役割を果たしています。保全された棚田は土砂崩れを防止し、畔に囲まれた田んぼは集中豪雨の際に雨水を一時的に貯留するダムのような働きをして洪水も防ぎます。また、貯留された雨水は時間をかけて地下に浸透し湧水として生活に利用されます。さらに、溜池や湿田などの水たまりも多いので生態系保存機能も有しています。
こうした稲作以外にも多様な機能を持っている棚田の保全活動推進を目的として、農林水産省は平成11年に優れた棚田134地区を「日本の棚田百選」として認定しました。(姨捨棚田も認定されています。)しかし、全国各地の棚田では担い手の減少や農家の高齢化で保全活動が難しくなり、荒廃の危機に直面していきます。そうした状況を受け、令和元年には棚田地域振興法を施行、令和4年には「つなぐ棚田遺産~ふるさとの誇りを未来へ」として271の棚田を認定するなど、国は棚田の保全活動に更に力を入れています。
さて、姨捨棚田ライトアップの経緯や棚田存続の重要性まで分かったところで天気の良い日の夕方に会場に出かけてみました。「ペットボタルⓇ」の蓄電には昼間の太陽光が必要なので、綺麗に光るかどうかはその日の天候次第になります。
日の入りが早いこの時期は17時頃から光るという事なので、17:15分頃には駐車場に着くようにしました。陽が落ちたとは言えまだうす暗い程度で遠くからははっきり見えませんでしたが、近づいてみると「ペットボタルⓇ」が緑色に光っていました。
光に誘導されて登っていくとその数はさらに増えて棚田の畦の線がはっきり見えてきました。昼間見たときからは想像できない光景で、眼下の夜景も相まってとても綺麗です。
棚田が広く見える場所を探しながら更に上に行くと「姪石苑」という休憩所に着きました。休憩所自体は冬期は閉鎖されていますが、建物の外はしっかり整地されているし棚田も夜景も広く見えるので会場内ではここが特等席かもしれません。
棚田百選の「姨捨棚田」のライトアップと夜景百選の「姨捨夜景」がセットで楽しめるとは、なんとも贅沢な事で暫くは寒さも忘れて見とれていました。
休憩所の上の棚田はライトアップされていないので会場内ではここが頂上、写真を撮って戻ることにしました。「ペットボタルⓇ」は色が変化するように作られていて、あぜ道では15分毎に青・緑・ゴールド・ピンクの4色、他の場所では30分ごとに白・黄色の2色があるそうです。
夜景が良く見える姨捨駅のホームからも見えるかと思い帰りは駅を経由してみましたが、姨捨駅のホームからは距離と角度の関係で棚田の一部が小さく光って見えるだけでしたので、あの景色に出会うにはやはり会場まで足を運ぶことになるようです。
ただ、途中にある長楽寺の境内からも棚田方向に光が見え、姪石苑にはこちらのルートの方が近いので次回はこちらのルートから行こうかと思いました。
当ホテルからは寄り道しても1時間程度と案外短い時間で行って来ることができました。
千曲市観光課の方から聞いた話の中には令和8年度中に姨捨棚田の南側に面した道路に展望台を作り、そこから見える棚田にも「ペットボタルⓇ」を設置するという計画もありました。棚田の南側なら温泉街からは更に近くになるのでご宿泊される場合には夕食前の見学も可能になります。
当地としては冬ならではの観光スポットがまた増えますので、「ペットボタルⓇ」を作ってくれる子ども達と関係者の方々へは地域全体で応援したいものです。
*2025年度のライトアップは2026年3月13日迄です。
見学の際は懐中電灯の携帯をお勧めします。