

日本にはたくさんの湖沼がありますがその99%は人工と言われています。
人工で湖沼を作る目的の多くは農業用水の確保の為で日本各地にはたくさんの溜池が作られてきました。その溜池の中には単に水を確保するだけでなく水を温めるのが目的の「温水ため池」と呼ばれる池があることをご存じでしょうか。
稲の生育に適した水温は25℃~30℃と言われていますので、夏でも水温が15℃程度の標高の高い地域で稲作をするには水を温める必要があります。
「温水ため池」とは、堰堤で水をせき止め、太陽光で温められた池の上澄みが堤体と呼ばれる放水口から溢れ出る仕組みの溜池のことで温まった水は水路を通って水田に運ばれて行きます。
標高の高い長野県は特に「温水ため池」が多く、景観が良い場所は観光地にもなっています。
県内有数のリゾート地にもなっている白樺湖も実は昭和21年に完成した「温水ため池」で、完成当初の命名は「蓼科大池」でした。
白樺湖ほど規模は大きくないですが、観光地の「温水ため池」と言えば戸隠の鏡池もその一つ。戸隠連峰が鏡の様に映ることから「鏡池」とも呼ばれていますが正式名は「西原温水ため池」です。戸隠村の宝光社、中社地区は標高が1200mと高く稲作を行うには難しかった地域ですが、戦後になって大規模な開田を実施、水田用の水を確保する為昭和44年から49年にかけて県営事業として「西原温水ため池」が築造されました。
神話伝説のイメージが強い戸隠なので鏡池は随分昔からあって伝説めいたものがあるのかなと思っていましたが人工池とはちょっと驚きです。
さて、戸隠と言えば蕎麦と神社が有名ですが5月は水芭蕉も見頃、鏡池は行ったことが無かったので水芭蕉見学を兼ねて訪ねてみることにしました。
ゴールデンウィークでもこの日は最終日、それほど混雑はなく戸隠神社中社の駐車場にも空きがあるほどでしたが参拝はせずにまっすぐ鏡池に向かいました。
中社から少し先にあるお蕎麦屋さんを左に曲がり乗用車2台がやっとすれ違えるくらいの狭い道を2kmほど走り鏡池に到着。池の前の駐車場は5台程度の広さ、満車の場合は更に奥に進むようですが運よくこの駐車場に停められました。
長野市内は22℃ほどあった気温がここでは15℃、夏でも水温が低いということが実感できます。ジャンバーを着込んで池のほとりに行くと湖面の先に戸隠連峰が迫るように見えて圧巻の景色、またゴツゴツした岩肌が手前の淡い新緑を更に柔らかく感じさせています。
風で湖面に細波が立ってしまってなかなか鏡のような景色にはなりませんでしたが風が止まる一瞬を待って何枚か写真を撮りました。道幅が狭く大型の車は入って来られない為か混雑がなくてとても静か、鏡池という名前がぴったりかなと思いました。
景色に見とれてうっかり「温水ため池」の件を忘れそうになって辺りを見渡すと堰堤の先に堤体があり、近づいてみると湖面の水が溢れ出ていました。鏡池の作られた目的や経緯について書かれた案内は無いようで他にこの場所に来る人は見かけませんでした。
鏡池周辺案内を見れば鏡池は一周することができ、遊歩道は奥社や戸隠森林植物園にも繋がっています。今回はそこまでの時間や装備もなかったので少しだけ遊歩道を歩いてみることにしました。
暫く歩くと小さな川がありその先が鏡池で湿地帯には水芭蕉が群生していました。
戸隠森林植物園の水芭蕉の小路ほどの規模ではないですが、ここでも十分楽しめますし池が一緒に見えるところが良いと思いました。
水芭蕉の他にも山野草が綺麗に咲いていて、全部撮っていると山野草がメインのルポになりそうで家族連れの賑やかなクマよけの鈴の音と一緒に駐車場に戻りました。
せっかくなので戸隠蕎麦を食べて帰ろうかと思いましたが、ちょうどお昼時でどのお店も混雑していたので次回にして帰路につきました。
「温水ため池」についてもう少し調べてみるとリゾート地の女神湖や東山魁夷氏の絵のモチーフになった御射鹿池も人工的に作られた「温水ため池」でした。
観光地にするのが最初の目的ではなかったはずと思いますが観光地としても地域貢献になれば一石二鳥かもしれません。ただ、信州の観光地になる程ですから自然も豊か、過剰な開発にならないよう願いたいものです。
*訪問日 5月6日