

日本の着物の中で、伝統と歴史があり売り上げの大半を占めている紬は日本三大紬と呼ばれています。
鹿児島県奄美大島の大島紬、茨城県の結城紬、石川県の牛首紬がそれにあたりますが、新潟県の塩沢紬、長野県上田市の上田紬も含まれると言われるなど、どれが正式な三大紬かは諸説あるようです。
上田紬が有名になったのは江戸時代で、蚕種(蚕の卵)の製造が始まり、その副産物である出殻繭が良質な紬糸の原料になったことから紬織が盛んになりました。その生産量の多さから大島紬、結城紬とならんで日本三大紬と呼ばれ現在は上田市の伝統工芸品に指定されています。
当館のお土産処「花雪洞」でも数年前より上田紬の商品を販売しています。
紬と言っても着物ではなく紬を使った印鑑ケースやブックカバーなどの日用品で、最近はバックや帽子、ストールなど商品の種類も増えてきました。仕入れ先の上田紬「藤本」塩田店のHPから商品一覧を見ると着物以外の商品が意外と多く中でも目を引いたのが紬を使ったエプロンでした。とてもおしゃれで上品に仕上がっていてびっくり、この機会にお店を訪ねて改めて上田紬についてお話を聞かせていただく事にしました。
お店は上田市塩田地域にある戦没画学生慰霊美術館「無言館」と三重塔が有名な前山寺との間にあります。何度も通っている場所なのでお店の存在は知ってはいましたが、着物には縁がないという思いから今回が初めての訪問になりました。
お店に入ると店長の岩下朝香さんが着物姿で出迎えてくださいました。店内は外観から予想したよりずっと広く、織機、商品棚、カフェのスペースに分かれています。
挨拶を済ませてから、そもそも紬とは何かという基本的なことからお伺いすると実物の繭と紬糸を用意して説明してくださいました。
生糸は蚕が羽化する前の繭から、長くつながった一本の糸を繰り取って作られます。そのため、羽化して穴が開いてしまった繭や玉繭、くず繭などは生糸に向きません。そうした繭を煮て広げ真綿を作り、その真綿を手で少しずつ紡いでできた糸が「紬糸」です。
紬糸には節があり、ふんわりとした風合いと温かみが特徴で、丈夫で軽く、普段着にも適していることから、古くから日常の着物として親しまれてきました。
現在では、真綿から紡ぐ紬糸は、機械で大量生産できる生糸よりも高価になることが少なくありません、との事でした。
インターネットで読んだだけではピンと来なかった事も、実物を見ながらの説明でようやく理解できました。
街中ではなくこの場所に店舗を構えた理由を伺うと、お寺が多いこの地域は信州の鎌倉と呼ばれ、別所温泉から上田市街までの観光ルートとして賑わっていたので観光で訪れた方に上田紬を身近に感じていただける場所としてこの地を選んだとの事。
時代が変わり情報も取りやすくなった現代では旅行者も自分の目的の場所を絞って行動するので、近くの無言館や前山寺が目的で来た人がついでに立ち寄ることはないそうです。
当初はお土産だけでも成り立っていたが、今は「物」を売るだけでは成り立たないので「事」も売ろうと考え機織り体験も始めたと話されていました。
HPの商品覧で見たエプロンが素敵だったので見たいとお願いすると、何着か用意してくださり写真用にと一着をトルソーに掛けてくださいました。
「台所でつけるにはもったいないような…」の感想に、汚れやすい部分は綿を使って洗い易くしているのでお客さんを自宅に招いた日とか特別な日につけても良いのではと話してくれました。
紬のエプロンと聞けばなんだか「作品」と言うイメージですが、他の素材と合わせて実用的にできるのが紬の良いところかもしれません。
岩下さんも、これからは上田紬=和服というイメージを脱却して上田紬を使った何々という展開にしていきたいとの事でした。ただ、手間の掛かる商品なのでどうしても高くなってしまうことからその価値を分ってもらえる人にどうアピールしていくかが課題でデザインや価格面でもいろいろ工夫しているとおっしゃっていました。
紬の出来る過程から上田紬を使ったこれからの商品展開まで興味深いお話をたくさん聞かせていただいたので、あっという間に時間が過ぎてしまい、最後は玄関前で岩下さんの写真を撮らせていただき帰路につきました。
帰ってから伝統工芸品の現状について調べてみると、後継者不足やライフスタイルの変化などからどう販路を広げていくかが課題になっていて、伝統的な技術を活かしつつも現代のライフスタイルに合わせたデザインや機能を取り入れることが必要という記事がありました。
岩下さんから聞かせていただいた上田紬の課題や必要な対策は正にこの記事の通りで「上田紬のエプロン」はその良い例だと思いました。また「物」だけではなく「事」を売るという考えはあらゆるジャンルに通用する事なので今回の訪問は随分と勉強になりました。
お店の看板だけを見ると「呉服屋さん?」というイメージがわくかもしれませんが、店内は工房もある落ち着いたショップ&カフェという雰囲気。広い窓からは外の景色も良く見えるので近くにお越しの際はぜひ立ち寄ってみてください。