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真夏の異空間 小諸市「氷風穴」

掲載日/2026年9月上旬

 猛暑日が続く毎日ですが、屋外なのにエアコンの効いた室内より涼しい「風穴」という場所があることをご存じでしょうか。
「風穴」とは山の斜面内部にある岩の隙間で、冬の間に冷やされた空気が夏に噴き吹き出る場所のことです。冷蔵庫のない時代はそこに小屋を作り貯蔵庫として利用されてきました。小諸市には真夏でも室温2℃という「風穴」を利用した貯蔵庫があり、現在も利用されていて、その名も「氷風穴」と言います。
聞いただけも涼しくなりそうなこの「風穴」は地元の「氷風穴の里 保存会」の皆さんが管理しており、HPでは「風穴」の原理や歴史について詳しく紹介しています。
「氷風穴」には一般の人も無料で体験できる「風穴」小屋があるという事なので猛暑日のレポートにはうってつけ、今回は夏でも涼しい天然の冷蔵庫「風穴」を訪ねてみました。


場所は小諸城址懐古園のある市街地からは千曲川を挟んで反対側の山の中腹で、駐車場が道路沿にあるのでとても分かりやすいです。HPを見た限りではあまり人が来ないマニアックな所かと思っていましたが、すでに車が数台あって後から入ってきた車には海外の方が乗っていました。

駐車場にある案内図に従って山道を下ると、すぐに幟旗とベンチのある休憩スペースが見えました。草むらのような道を歩くのかと想像していましたが綺麗に整備されていてとても歩きやすいです。


休憩所の横には石垣でできた深い堀があって、ここが「風穴」なのかと覗いていると「こちらへどうぞ」と下の方から声がします。体験用の「風穴小屋」はこの先のようでスタッフらしき人が手招きしていました。

体験小屋の入口には温度計があって22℃を指しています。駐車場は30℃超えだったので「風穴」の外でもけっこう涼しいです。ドアを開けて中に入ると同時に足元から「すーっと」冷たい空気が吹き上げてきて涼しいというより寒いくらい、半袖から出た腕をさすっていました。

中に入った所にも壁に温度計があってこちらは12℃、後から入ってきた海外の方も目を丸くしていました。

中央には小さな小屋があってここが貯蔵庫のようです。中に入るとさらに寒くなって、温度計はなんと3℃を指していました。駐車場との温度差は27℃以上、自然の力でここまで冷えるとはびっくり、天然の冷蔵庫というよりは異空間という感じです。

びっくりした顔で外に出るとスタッフの方が笑っていました。
小屋の外は野天なのにどうしてこんなに涼しいのか尋ねると、冷たい空気は重くて地表に留まっているからとの事でした。 今日は見学者が多い方ですかと訪ねるとJRの会員誌で紹介されてから多くなったと教えてくれました。駐車場からの道が随分整備されているのは、10年前に「氷風穴の里 保存会」ができたからだそうで、いただいた名刺には「氷風穴 保存会」会長と書かれていました。

今回訪問した主旨を伝えると「氷風穴」の構造や歴史について詳しく説明してくださいました。
「風穴」の利用はいつから始まったか正確には不明のようですが、江戸時代には「風穴」で保存した氷を藩主に献上していたそうです。明治になって養蚕が盛んになると「風穴」を使って蚕種(蚕の卵)を保存するようになり全国に供給するまでの規模になりました。とりわけ供給量が多かったのが富岡製糸場のある群馬県だったそうです。

長野県は「風穴」が多く、全国におよそ300カ所あるとされている「風穴」のうち100カ所は長野県。その中でもこの地区の「風穴」の温度は特に低く、理由についてはいくつかの要素はあるいようですが「風穴」を形成している溶岩の成分が影響しているのではないかとの事でした。

保存会のHPから印刷した案内図には「風穴」の下の集落の名称が「氷集落」となっていることについて訪ねると、なんと住所が「氷」ということで、宅配の荷物も小諸市氷で届くのだそうです。 氷集落には弘法大師に纏わる伝説があって、喉が渇いて困っている弘法大師に村人が湧水を差し出すと大師はお礼として氷かお湯を選ばせ、村人が氷を選ぶと「風穴」を授かり以後この集落名が氷となったとのことです。

体験用「風穴」小屋の隣には実際に貯蔵している「風穴」小屋がありますが、こちらは個人が使用しているとの事で見学はできませんでした。
その先は立ち入り禁止区域になっていて斜面にシートを張る作業をしている人たちが見えました。会長さんに尋ねると「自然冷熱エネルギープロジェクト」の人達が調査をしているとの事。このプロジェクトについて後で調べたところ、文部科学省の科学研究費助成事業の一環で保存会の協力を得ながら「氷風穴」を使った実験を行い自然エネルギーの可能性について解明する計画とありました。

丁寧に説明をしてくださった会長さんにお礼を言って車に戻ると車内は30℃以上、一気に現実に戻ってしまいました。エアコン全開で帰社しようと思いましたが、せっかくなので「氷」という地名の元になったという弘法大師伝説の集落と湧水池を見てみようと立ち寄ってみることにしました。

「氷 風穴の里」と刻まれた標石を曲がるとすぐに集落に入れましたが、道路は車がすれ違いできないほど狭くUターンもできません。案内があるかとキョロキョロしながら道なりに車を進めていくうちに集落から外れてしまい戻るのも大変なので今回は諦めることにしました。

車から降りて少し歩いてみると千曲川を挟んで対岸の小諸の街や山々がとても綺麗に見えます。どの辺かと保存会の案内図を見てみると、浅間連峰が良く見えるビューポイントとなっていました。自然冷熱エネルギーの研究がどう進んでいくのかはわかりませんが風穴現象が現代生活に役立てられればどんなに助かるだろう、などと日差しの強い斜面から対岸の景色を見ながら考えてしまいました。